目次
カッティングガーデンとは ― 庭から花を暮らしへ
カッティングガーデンの基本的な考え方
「カッティングガーデン」とは、切り花を楽しむために育てられた花の庭のこと。
観賞のための庭とは異なり、「摘むこと」を前提にデザインされています。
イギリスでは、季節の花々を庭で育て、咲いた花を摘んでリビングやダイニング、玄関などに飾るのが暮らしの一部として根づいています。
この文化は、自然とともに生きる英国人の感性と、家庭を大切にするライフスタイルの象徴でもあります。
カッティングガーデンの歴史 ― イギリスで育まれた「暮らしの花」
イギリスのカッティングガーデンは、長い庭園文化の歴史の中で育まれてきました。
その始まりは中世の修道院。
薬草やハーブを育てる「実用の庭」が原点で、ローズマリーやラベンダーなど、今も親しまれる植物がこの時代に広まりました。
16世紀のルネサンス期には、貴族たちが美しい「ノットガーデン」を作り、
庭を装飾として楽しむようになります。
この頃から、花を観賞する文化が広まり、カッティングガーデンの芽が生まれました。
18世紀になると、ウィリアム・ケントやランスロット・ブラウンによる
「自然風景式庭園(イングリッシュガーデン)」が誕生します。
人工的な造形よりも自然の姿を尊び、屋敷の庭では花を摘んで飾る習慣が広がりました。
これが、現在のカッティングガーデンの原型です。
19世紀のヴィクトリア時代には、花の品種改良と温室文化が発展し、
一般家庭にも「庭で花を摘んで暮らしに飾る」スタイルが定着しました。
ガーデニングは女性のたしなみとされ、リビングに自家製の花を飾ることが豊かさの象徴となります。
20世紀初頭には、ガートルード・ジーキルが登場し、
自然で調和のとれた植栽デザインを提案。
彼女は「摘んで束ねる」ことを芸術として位置づけ、
カッティングガーデンの精神をより豊かなものへと導きました。
そして現代のイギリスでは、環境に優しい「ローカルフラワー運動」が盛んです。
庭で育てた花を日常に取り入れることが、持続可能で心豊かな暮らしとして再評価されています。
カッティングガーデンは今もなお、「自然と人が寄り添う庭」として息づいているのです。
現代のカッティングガーデン ― サステナブルな選択
近年では、カッティングガーデンが再び注目されています。
輸入花に頼らず、地域の気候に合った花を自分で育てることは、環境への配慮にもつながります。
特にローカルフラワームーブメント(地元の花を使う運動)の広がりにより、家庭菜園ならぬ「家庭花園」が見直されています。
カッティングガーデンを彩る花たち
春 ― チューリップとスイートピー
イギリスの春は、柔らかな光とともに花々が一斉に芽吹く季節です。
カッティングガーデンでは、チューリップやスイートピーが主役。
特にスイートピーは香りがよく、摘んでから数日間は室内でも甘い香りを放ちます。
色とりどりのチューリップを束ねるだけでも、シンプルで上品なブーケが完成します。
夏 ― バラとダリアの競演
夏のカッティングガーデンは華やかさの極み。
香り高いイングリッシュローズや、大輪のダリアが咲き誇ります。
イギリスでは、デビッド・オースチン社のバラを中心に、ロマンチックで香り豊かな品種が人気。
バラは一輪でも存在感がありますが、庭で咲くハーブ(ローズマリー、ミントなど)と合わせて束ねると、自然な雰囲気のブーケになります。
秋と冬 ― 名残の花と実りを束ねて
秋になると、セダムやアストランティア、紅葉した葉ものが活躍します。
イギリスでは「晩秋のブーケ」も人気があり、咲き残ったバラやクレマチスの実、ヒペリカムなどを組み合わせて季節の移ろいを表現します。
冬は花が少ない季節ですが、常緑の葉ものやベリー類、乾いた種子の質感を活かすことで、落ち着いた美しさを楽しむことができます。
イギリス式カッティングガーデンのデザインとレイアウト
区画ごとに植える「花畑の構成」
カッティングガーデンは見た目の美しさよりも「管理と収穫のしやすさ」を重視して設計されます。
多くの庭では、花を用途や色ごとに区画分けし、列状に植えるのが特徴です。
たとえば、「白とグリーンのゾーン」「ピンク系のゾーン」「ハーブと混植ゾーン」といった具合です。色の統一感を持たせると、ブーケ作りの際にも調和のとれた花合わせが簡単にできます。
宿根草と一年草のバランス
イギリスの庭は宿根草が中心ですが、カッティングガーデンでは一年草も積極的に取り入れます。
宿根草は毎年同じ場所から芽吹き、庭に安定感を与えます。一方、一年草は季節ごとに花色を変え、庭に変化をもたらします。
このバランスこそ、イギリスの自然な庭づくりの魅力です。
花と野菜の共存 ― ポタジェとの融合
イギリスでは、カッティングガーデンが菜園(ポタジェ)と隣接していることも多いです。
同じ畑に花と野菜を植えることで、害虫を避けたり、相互に良い影響を与えたりする「コンパニオンプランツ」の考え方が根づいています。
花が咲き乱れる庭の隣で野菜が育ち、どちらも「暮らしを支える存在」として愛されています。
暮らしに花を ― 英国流のブーケと飾り方
摘みたての花を束ねるシンプルな喜び
カッティングガーデンの最大の魅力は、「摘んですぐに束ねられること」です。
庭に出て、その日の気分や天気に合わせて花を選び、自然な形のまま束ねる――それが英国式のスタイルです。
完璧な形よりも、少し不揃いなブーケのほうが「生きた花の表情」が感じられるとされています。
日常に溶け込む花の飾り方
イギリスでは、花を特別な日のためだけに飾るのではなく、日常の延長として楽しみます。
キッチンの窓辺、玄関、寝室、バスルーム――どんな場所にも花があります。
古いティーポットやミルクジャグを花器として使うなど、自由で遊び心のある飾り方が特徴です。
季節の移ろいを「色」で感じる
イギリス人は、季節ごとの「色の調和」にとても敏感です。
春は淡いピンクや黄色、夏はビビッドな色合い、秋はアンバーやバーガンディといった深みのあるトーンへ。
庭の花を通して季節を感じることが、心の豊かさにつながるのです。
カッティングガーデンから学ぶ、花と生きる知恵
自然のリズムに寄り添う暮らし
カッティングガーデンでは、人が自然に合わせて暮らします。
季節によって咲く花が変わり、同じ庭でも毎年違う表情を見せます。
この「変化を受け入れる姿勢」が、英国のガーデニング文化の根底にあります。
花を通じた心の癒し
花を摘むという行為には、心を落ち着かせる力があります。
土に触れ、植物と向き合う時間は、忙しい日常の中で心をリセットする時間でもあります。
カッティングガーデンは単なる庭ではなく、「心の庭」でもあるのです。
日本で楽しむカッティングガーデンのヒント
日本でも、日当たりの良い場所があれば小さなカッティングガーデンを楽しめます。
ミニチューリップ、スイートピー、ジニア、コスモスなど、育てやすく長く楽しめる花を選ぶのがおすすめです。
また、ベランダや鉢植えでも十分に「摘んで飾る喜び」を感じることができます。
そして、私のアトリエの庭もカッティングガーデンにしています。
小さなお庭ですので、今はグリーンのみを生徒さんみずからカットして、アレンジに使ってます。
(お花類は花市場で仕入れてます。)
まとめ 花と暮らすことは、人生をていねいに生きること!
イギリスのカッティングガーデンは、単なるガーデニングの手法ではなく、「日々の暮らしを大切にする哲学」です。
自分の手で花を育て、摘み、飾る。その一連の行為の中に、季節を感じ、自然を敬い、自分と向き合う時間があります。
忙しい現代だからこそ、花とともに過ごすひとときを取り戻すことが、心豊かな生活への第一歩になるのではないでしょうか。

